新日本フィル特別演奏会

指揮:クリスティアン・アルミンク

新日本フィルハーモニー交響楽団

アルト独唱:アン=カトリン・ナイドゥ

栗友会合唱団・TOKYO FM少年合唱団

2003 年 9 月 26 日 すみだトリフォニーホール

 新日本フィルに新しい音楽監督が就任し、その記念演奏会にマーラーの交響曲第3番をやるというので、好奇心にかられて聴きに行った。期待にたがわず、充実した演奏ぶりであった。プログラムは最初にモンテヴェルディの5分ぐらいの世俗的なマドリガルがあって、休みなしにマーラーの交響曲に続くので、最後までまったく休憩がなかった。モンテヴェルディとマーラーでは、時代も様式もまったく異なるので、意表をついた組み合わせのプログラムであるが、新監督のアルミンク氏によると、どちらも「愛」をテーマにしているとのことで、その選曲からしてすでに並々ならぬ意欲が感じ取れた。

 決して大オーケストラ向きとはいえないトリフォニーホールの舞台にはぎっしりとオーケストラ団員が詰め込まれ、その後ろに女声合唱団が並んだ。さらに途中から、少年合唱団がバルコニーに並び、アルト独唱は指揮者の隣に立つ構成だった(そのほか、舞台に隠れて、ポストホルン奏者らしき人が演奏した)。音楽監督・指揮者のクリスティアン・アルミンクは、オーストリアの人で、まだ30そこそこの若さである。すらりとして、控えめな印象の人であるが、昨年ルツェルン歌劇場の音楽監督に就任するなど、これから世界的な大指揮者に成長していくのかもしれない。当日は前から二列目に座ったということもあるだろうが、彼の呼吸音から、鼻歌からすべてよく聞こえて、すでにオーケストラを自在に操っているように思えた。

最初のマドリガルは女声合唱だけで歌われ、初めて聴く曲だったが、「聖母マリアの夕べの祈り」などでおなじみのモンテヴェルディの合唱曲だった。曲が終わったので、拍手しようとすると、指揮者がそのまま指揮棒を下ろさずに次の曲に突入した。ちなみに、マーラーの途中でも、アルト独唱や少年の合唱に対して、途中で拍手したいなと思っても、巧みな誘導というべきか、それを許さなかった。オペラではないのだから、当たり前かもしれないが、真摯な指揮ぶりと言えなくもない。マーラーの曲は、彼の作品を実演で聴く度に思うことだが、さまざまな音色を出すための工夫などがよくわかって、実に興味深い。今回は座席位置のせいもあって、最弱ピアニッシモからフルオーケストラの強奏まで堪能した。特に第2楽章や第3楽章など、これまではつなぎと思って聞き流してきたところに、いろいろな発見があった。オーケストラはかなり上手に演奏していた。金管セクションも難しそうなところもほとんど見事に吹きこなしていた。アルト独唱は当初予定されていた歌手とは別の人だったようだが、第4楽章では堂々とした歌いっぷりで、すばらしかった。コンサートマスターのヴァイオリン独奏も美しかった。このように、全体にすばらしい演奏で、十分に満足したが、感動のあまり涙がこぼれるという種類の演奏でもなかったような気がする。どちらかというと、すっきりと近代的でスマートな演奏だったように感じたが、それは、もしかすると単に若い指揮者の外見の印象に引きずられているだけかもしれない。彼は演奏中結構、燃えていたようだったが、総じて健康体のマーラー演奏だったと思う。もちろんそういうアプローチも、第3番や第4番あたりでは決して悪くはないのであって、決して批判したいわけではないのだが、マーラーってこんなにすっきりしてたっけ、という思いもないわけではなかった。 ともあれ、この指揮者のこれからの活躍ぶりが楽しみではある。


(C) Kenta Nakai