19 世紀の夢と現実 オルセー美術館展 1999

1999 年 12 月 4 日 国立西洋美術館

 本日、上野の国立西洋美術館で開催されている「19 世紀の 夢と現実 オルセー美術館展 1999」を見てきました。オルセー 美術館は以前パリで来訪したときに休館日で入れなかった苦い 思い出があったため、今回は少々の混雑もものともせずに行って やろうという心づもりでした。実は先週の土曜日の3時頃急に 思い立って、友人と車で上野に行ってみたのでしたが、4時半の 入場制限に間に合わず、今回二度目(パリから数えて三度目)の 正直だったのです。閉館1時間ほど前に着いたため、混雑もさほど ではなく、5分ほどで中に入れました。内部も混んではいましたが、 鑑賞ができないほどではありませんでした。

 今回、どうしても行ってみたくなったもう一つの理由は音楽 評論家の吉田秀和氏が朝日新聞の音楽展望で取り上げて、この手の 展覧会が新聞で取り上げられないのは、「今さら印象派なんて」と いうことなのだろうが、今回の展覧会では 19 世紀の夢と現実を 「人間と歴史」、「人間と自然」などなどのテーマに分類して 再構成しており、それなりに評価されてもよいのではないか、という ようなことを書かれていたこともあります。同氏は、クラシック 音楽の演奏会評では同じ古典曲を何度でも取り上げるのに、美術 ではなぜこの種の試みを評価しないのかというようなことも書いて おられました。 もっとも、私としては同氏の意見に全面的に 賛成とはいえず、今回の切り口もそれほど新鮮には見えませんでしたし、 演奏家と学芸員の仕事はやはり同列には論じられないとも思います。 ただ、新聞が自社の後援企画でない展覧会をほとんど黙殺するような 風潮はなんとかならないものかと日頃から思ってきました。

 で、展覧会の印象ですが、やはり来て良かったと思います。なぜかと いうと、今回ほど実際に絵を観たときの印象と後で図録を見たときの 印象が異なる展覧会も珍しかったからです。特に大きくて暗い色調の 作品、たとえばドローネーの「ローマのペスト」、ドレの「謎」、 ホーマーの「夏の宵」、モンドリアンの「スタドホウデルス埠頭」 など、は図録の色調が悪いせいか、後で図録をみてかえって印象が 悪くなってしまいました。あと、ロダンやドガをはじめとする人たちの 彫刻やガレなどの工芸作品なども、もちろん実物に接する喜びが 得られました。いわゆる印象派の作品では、やっぱりモネの絵が すばらしかったほか、ルノワールやゴッホ、ゴーガンなどにもよい ものがありました。照明の具合によって、よい角度からみないと うまく見えないのには閉口しましたが、厚塗りの絵の具が光を反射 している具合は確かに良いものです。

 肝心の展示の切り口ですが、先にも書いたとおり、それほど作品に 新しい光を当てるという印象はなかったです。ただ、「労働」と 題されたセクションなど、やや社会派風の作品が集められたところや 戦争関係の絵画などをみると、これまでの近代絵画のイメージが 印象派に偏りすぎていたかなと少し感じました。

 帰り道に、東京芸大の前を通ると、こちらは5時半になっても すごい行列が続いていました。こちらの展覧会にいらした方は おられませんか。


(C) Kenta Nakai